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64年ぶりへの挑戦(ウオッカ)

  • 2014年01月06日(月) 12時00分
ウオッカ

ウオッカ





◆常識外のことをやってのけた男まさりの女傑

 馬の世界にも男まさりの女傑がいて、時に常識外のことをやってのける。

 5大クラシックとは3歳馬が一生に一度しか出走できない大レースで、桜花賞、皐月賞、オークス、日本ダービー(東京優駿)、菊花賞のことを言う。このうち桜花賞とオークスは牝馬しか出走できない。一般的に牝馬は牡馬に比べて能力が劣るため、こうした限定レースが設けられている。

 ところが、その牝馬の特権を捨てて日本ダービーに挑戦し、並み居る牡馬をなぎ倒す牝馬が現れた。2007年の春、牝馬による64年ぶりの日本ダービー制覇を成し遂げたウオッカである。

 1932年に創設されて以降、過去に牝馬が勝ったのはヒサトモ(1937年)とクリフジ(1943年)のみ。戦前までさかのぼらなければ前例がなかったが、この2頭はいくらか環境に恵まれていたと言えるだろう。戦前と戦後のしばらく日本ダービーは春に、オークスは秋に行われていたので牝馬が両レースに出走することができたのだ。

 しかし、1953年から日本ダービーと同じ春にオークスが移行し、翌週が日本ダービーという日程となり、牝馬の挑戦がローテーション的に難しくなった。このため牝馬の日本ダービー出走が激減。これとともに優勝も途絶えて、いつしか「牝馬は日本ダービーを勝てない」という考えが常識化していった。まれに日本ダービーに向かう牝馬がいたが、結果は芳しいものではなかった。

 ウオッカは北海道静内町のカントリー牧場で生まれている。谷水雄三オーナーは生産馬を売らずに自分で所有して走らせる、いわゆるオーナーブリーダー(馬主兼生産者)だった。ウオッカの父タニノギムレット、母のタニノシスターともに彼が自家生産し、みずから馬主となって走らせていた馬である。

 父のタニノギムレットは2002年の日本ダービー優勝馬であった。ウオッカが勝てば“ホームメイド”の父娘2代制覇となるが、むしろ角居勝彦調教師のほうに挑戦の意欲が強かったと言われる。

 調教段階で2歳の未完成馬ウオッカが、年上の大物デルタブルース(菊花賞)、ハットトリック(マイルチャンピオンシップ)に食らいつく動きを見せていたからだ。確かにデビューするや3戦目の2歳牝馬GI、阪神ジュベナイルフィリーズを勝利。その内容が圧巻で、優勝タイムの1分33秒1は2歳芝1600mの日本レコードだった。

 この勝利で角居調教師は日本ダービーに挑戦する決意を固める。クラシック第1弾の桜花賞を断然の1番人気でダイワスカーレットに敗れても、それは変わらなかった。「なぜ勝てるオークスを捨てるのか」「牝馬が日本ダービーを勝てるわけがない」といった批判が渦まくなか、角居調教師はオークスには目もくれずに仕上げていった。

 そして迎えた日本ダービー。ウオッカは単勝10.5倍の3番に支持された。例年に比べると牡馬が全体に小粒だったこともあるが、名調教師があえて送り込む以上は「勝算あり」とみるファンが多かったのだろう。

 確かに、馬場の中央を切り裂いて鋭く抜け出し、2着を3馬身も突き放して勝利したのは、1番人気のフサイチホウオーでも、2番人気の皐月賞馬ヴィクトリーでもなかった。牝馬でただ1頭、敢然と挑戦したウオッカだったのである。

 堂々たる横綱相撲で牡馬をねじ伏せ、ウオッカが勝ち獲った2007年の日本ダービー。それは常識が根底から覆され、歴史が大きく動いた瞬間でもあった。(吉沢譲治)


◆レース詳細
2007年5月27日
第74回 東京優駿(GI) 東京/芝左 2400m/天候:晴/芝:良

1着 ウオッカ       牝3 55  四位洋文 2:24.5
2着 アサクサキングス   牡3 57  福永祐一 3
3着 アドマイヤオーラ   牡3 57  岩田康誠 1.3/4
7着 フサイチホウオー   牡3 57  安藤勝己
9着 ヴィクトリー     牡3 57  田中勝春

◆競走馬のプロフィール
ウオッカ(牝3)
父:タニノギムレット
母:タニノシスター
騎 手:四位 洋文
調教師:角居 勝彦(栗東)
馬 主:谷水 雄三氏
生産牧場:Taiカントリー牧場

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